少し前のニュースですが、こんなニュースを見つけました。
ソフトバンクグループ(SBG)が「特別買収目的会社(SPAC)」の設立を計画していることが13日明らかになった。
日本経済新聞
株式市場を活用して幅広い投資家から資金を集める考えを示したかたちだ。
SBGはビジョン・ファンドの2号の設立を表明していたが、外部投資家からの資金調達が難航していた。
今回のSPACの規模は未定だが、実現すれば株式市場を通じ幅広い投資家から資金を調達することができるようになる。
なるほどなるほど。
ところでそもそも「SPAC」って何?
ということで、不動産証券化領域の「SPC」に名称が似てるため単純に興味本位で調べてみたことをまとめます。
近頃、というより何年か前からベンチャー・スタートアップ企業が「3年以内にIPO(新規株式公開)を目指す!」などと目標を掲げる風潮にも親和性が高い内容かと考えます。
※今回の記事は「営業」とは全くもって無関係の内容ですので悪しからず。
SPACとは?
SPAC (Special Purpose Acquisition Company):特別買収目的会社
「会社」と付いているため企業は企業です。
しかし世間一般の事業会社とは異なり、自らは事業を営んでおらず、未公開会社や他社事業を買収することのみを目的として株式を公開する企業となります。
そしてSPACは買収先を見つけると、その会社と合併します。
その結果事業を営む買収先が存続会社となった後、上場会社となる、というスキームを構築するための会社がSPACです。
流れを簡潔にまとめると下記のような格好です。
① 実績のあるファンドや運営者がSPACを「空箱」として上場させる
※この時SPACはまだ事業の実態がないため「空箱」という表現
② SPACが投資家から資金を集める
③ SPACが②の資金で未上場企業を買収する
④ SPACと③で買収された未上場企業が合併する
⑤ 合併後③買収された未上場企業が存続会社として上場会社となる
以上です。
一言で表すならば、株式上場の第2の手段ではないでしょうか。
これまでは「株式上場」というと、金融機関やベンチャーキャピタル(VC)から資金調達して事業をスケールさせて上場準備や審査を経て晴れて上場、というイメージでしたが、このような未上場企業の上場方法は初見でした。
余談ですが、SPACは2年程度で買収先を見つけられなければ投資家に資金を返す仕組みになっていることが多いようです。
まぁそりゃそうというか、やはり投資家も回収の目処は立てたいところなので当然ですね。
そのため投資家はSPACの運営者の目利きをよくよく吟味し、信頼した上で投資をすることが重要になります。
また余談に余談を重ねると、上場時にどの会社を買収するのか不明なため、白紙の小切手を指す「ブランク・チェック・カンパニー」とも呼ばれるようです。
豆知識です。
SPACのメリット
ではSPACを活用するメリットは何なのか、という点ですがこれは買収される側(未上場企業)とする側(SPAC)で異なります。
それぞれ見ていきましょう。
買収される側(未上場企業)のメリット
買収される側(未上場企業)のメリットとして、やはり上場志向の未上場企業が上場までの期間や手続きを短縮できる点が挙げられます。
世間一般的な上場となると、監査法人や主幹事決定からプロジェクトチーム設置、経営計画の策定や審査書類の準備、事前審査等々多岐にわたる手続きや膨大な期間が必要です。
しかしSPACの場合はこれを「合併」という形を取り、同じ「上場」という着地に辿り着きます。
いわゆる上場までの「最短ルート」の構築が可能となります。
買収する側(SPAC)のメリット
一方買収する側(SPAC)のメリットとしては、「最短ルート」を提供することを交渉材料に、出資比率などの面でより有利な条件を引き出すことが可能、という点です。
IPOを目指す企業の大半は一日でも早い早期上場を望みます。
そのため早期上場の実現と引き換えに持株比率などの交渉がしやすくなるのは明白でしょう。
SPACのデメリット
では逆にSPACのデメリットとは何なのか。
ずばり、現状批判や反対意見が強いという点です。
伝統的な手続きをせずにシンプルに買収先が上場企業となるため、「安易な裏口上場に繋がりかねない」という意見も少なからず存在します。
米市場でも7~9月のIPOによる市場調達額の約半分(日本円にして約6兆6,000億円)をSPACが占めていますが、近頃は乱立し、過熱感や投資家保護への懸念が高まっています。
現状日本では導入が見送られている
実はこのSPAC、日本ではまだ解禁されておりません。
2008年にSPACの上場解禁が検討されましたが、課題が多く見送られた過去があります。
そのため冒頭のソフトバンクグループのSPAC設計は米市場にて、ということになりますのでお間違えのないように。
SPACの早期解禁のためにガバナンス統制を
そんなSPACですが、前述のとおり現状日本で本格的に解禁されるにはまだ時間を要しそうな雰囲気であることから、一先ず知っておいて損はないが知らなくても困らない程度の知識といえるのが正直なところです。
具体的な実現のためには、まずは運営におけるガバナンス整備の必要性を強く感じました。
しかし近年政府がNISAやiDeCoなどで「貯蓄から投資へ」の潮流を強めている背景を鑑みると、日本でSPACが実現した場合は我々一般投資家のさらなる幅広い投資先の選定が可能になりそうですね。
またSPAC側では、安易な裏口上場を防ぐためにも、企業買収時の「質」の見極めが重要となることは間違いないでしょう。